或る夜、ミズチが水辺に辿り着きました。
彼は、もうとても永い時間、ここまで歩いてきたのです。
なので、疲れ果て、深い眠りに落ちてしまっても仕方がありません。
水辺の砂は白く清潔で、まるで暖かいベッドのようでした。
嗚呼、気持ちがいいな……。
目を閉じたミズチは、それきりもう、動けませんでした。
静かな時が流れ、風が季節を運びます。幾千の星が降りました。
来る日も、来る日も……。
そして、深い森の奥、不思議な夜のことです。
ノルトワースが、ミズチの前に現れました。
そうして、こう言ったのです。
『大丈夫、想いは悉く飛ぶよ。』
ミズチは、驚いて目を醒ましました。
『嗚呼、君か……僕は、これから何処に行くのだろう?とにかく僕にはもう、差し出すものが無いんだ、だから……飛ぶことなんて、とても無理なことさ。』
彼にとってはもう、ただ起き上がること、眼を開けることさえ苦しかったのです。
けれど、ノルトワースは微笑みながらこう続けました。
『飛べるさ。本当は最初からね。レオンは君の心、星のように、水のように、風のように、鳥のように……さぁ、一緒に。』
ノルトワースがそう言うと、ミズチの身体はふわりと草の上に浮かび上がりました。
彼の背中には、もう美しい翼さえ生えています。
驚いて辺りを見渡すと、白く大きなアシュリが泳いでいました。
花の香りがして、月ノ子も現れました。
遠くでジキムの鳴き声も聴こえます。
大きな月が森を照らし、花々も目を覚ましました。
命は巡り、虫たちが美しく歌い始めると、魚たちも夢のように踊り始めました。
……森は恋に満ち、想いは悉く飛んで、やがて僕らは自由になりました。
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