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その夜。

月が落ちた夜に、僕は歩き始めました。

暗い道を行く僕の足には、すぐにトゲが刺さりました。

トゲは中々抜けず、時折血が滲むので、とても痛いのです……

ようやくトゲを抜いて歩き始めても、どうしても、また刺さってしまいます。

本当に面倒なことです……

だから、今はもう、トゲもそのままに歩きます。

どうしても痛い時には、静かに休んで、トゲを取りますけれど。

そういえば、硬い靴を履いたこともありました。

けれど、硬い靴はとても歩きにくく、なにより、すぐに疲れて歩けなくなってしまいます。

だから僕は、このままで行くのです。

ゆっくりと……

ゆっくりと。

しばらく森を行くと、【青い鳥】に出逢いました。

『もし、空を飛べたら、トゲに刺さる心配も無いし、なにより、気持ちが良さそうだね……』

僕は、そう鳥に話しました。 しかし、鳥はこう言うのです。

『君のように立派な脚で歩くことが出来れば、気持ちが良いだろうに。なにより、地面に落ちる心配が無いことは素敵なことさ。』

なるほど、そういうものか。

僕らは、一緒に歌を歌いました。

静かな歌です、森の奥の涼しい木陰で。

また歩き始めた僕は、やがて【赤い魚】に出逢いました。

『水の中は、トゲにも刺さらず、地面に落ちる心配も無さそうだ。なにより、気持ちが良さそうだね……』

僕がそう伝えると、魚はこう言いました。

『君はいいね。木に登ることも、山に登ることだって出来るだろう?なにより、大水に流される心配が無いことは素敵なことさ。』

僕らはすぐに仲良しになり、一緒にダンスを踊りました。

青く透き通った水の中で、いつまでも。

そうそう、今はもう、大きなトゲが刺さっていても、痛みを忘れることもあります。

たとえば君が、笑い、美しい歌を歌うとき。

それを聴きながら、僕は、絵を描き、眠り、静かな夢を見ているのです……

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