僕はある日、世界一美しいものを探そうと思ったんだ。
『それは、森の奥にある……』と、君に聞いたことがあった。
だから僕は、君を誘って、森の奥に出かけたよ。
森っていうのは、何処までも続いていて、深く深く広がっているんだ。
そう、本当に何処までもね。
森をどんどん行くと、僕らは美しい小川を見つけた。
花々が沢山咲いて、小さな魚も泳いでいたよ。
透明でキレイな水が、ユラユラと揺れていた。
裸足になって川を渡ると、僕らの足に揺れる水が、空に浮かぶ雲のように心地良かった。
『早速、お腹も空いてきたね。』
君は微笑んで、そう言ったんだ。
僕は、なんだか、不思議に心が軽くなり、森じゅうを飛び回っている夢を見たよ。
草の匂いが、とても素敵でした。
草はいいね。とても元気で、いつも汚れたものを隠してくれる。
隠すだけじゃないよ。ちゃんと命を紡いで、歯車のように回してくれる。
森はいつだって、初めは草から始まるんだ。
……さて、僕らは、大きな樹の前まで歩いてきたよ。
樹の洞には、大抵、不思議なものが居るね。
森ノ怪とか、そんなものたちです。
樹の枝はどんどん伸びて、僕らの手の届かない所まで行くよ。
風や雨も、乗り越えてね。
だから僕らは、大きな樹には敬意を払うんだ。
色んなものを貰うからね。
生き物にとって、樹は大切な家さ。
大きな樹ほど、色々なものが棲んでいる。
鳥や獣、虫やときには魚だって棲んでいるよ、カメやカエルや花々もね。
風が吹いてきたな。
遠い昔から、僕らは心地良い風が大好きなんだ。
グエルは心地良い風の吹く場所を知っている。
森で一番、心地良い場所。
だから、疲れた時には、黙ってグエルに付いて行くと良いよ。
草原の上で眠るのは、とても静かで気持ちが良いんだ。
傷だって、カナシミだって、いつの間にか、きっと静かにしてくれる。
そろそろ、日が暮れるね。
夕暮れ時も美しい。森は、いつだって美しいからね。
僕らは、少しだけ食べ物を食べて、夕陽に包まれました。
温かくて柔らかい空気、静かな森のざわめきが、耳と身体に心地良い。
嗚呼、あっという間に月が出た。もう、夜が来たんだね。
僕らの大好きな月の明かり。美しく不思議な時間。
遠くでアシュリが鳴いている。やがてジキムも泳ぎ出すかもしれないな。
星が一つ、二つ、輝き始めるよ。
草花は静かに、樹々も耳を澄ませているね。
虫は歌い、鳥は心地良い枝にとまって休んでいるよ。
いつか僕は、木に生まれ変わりたいな。
そうして、鳥や虫や草花の話を聞きたい。
静かに、静かに。優しくね。
嗚呼、僕はもう、そろそろ、眠くなってきたよ……
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