僕は、こんな話を誰かに広めようとは想わないんだ。
人生は短いから、誰だって大切な時間を無駄にはしたくないし、人はみんな弱いから、暴力に倒れ、誘惑に負け、暗い夜には小さな灯火にすがる。
だから、ね。
君がどうしても諦めないから教えるけれど、本当に、この話はつまらないよ。
『うん。』
森の奥にある宝物が欲しければ、途方もない時間を費やし、たゆまぬ努力を続けること。
自分の耳で聞き、自分の目で見、自分の頭で考え、呆れるほどの検証を繰り返し、過ちを素直に受け入れること。
誰かの意見や反論には真摯に耳を傾け、その上で自分をも疑い、おごらず、過信せず、より一層目と耳と口を開くこと。
苦しくとも諦めずに調べ続け、分析し、そうして疑いようのないことを見極めた時、
ようやく小さな石ころに辿り着く。
『大変なんだね。』
うん、本当に大変なことさ……
その石を手に入れたら、今度はそれをきちんと言葉にし、みんなに見せて繰り返し問答し、更にたゆまず歩き続け、もう一つ小さな別の石を見つける。
そうやって集めた石を沢山積み上げると、本当に本当のことを知ることが出来る。
それが、宝物さ。
旅の途中、無責任な嘘を垂れ流したり、誰かを騙してはいけない。
自分でちゃんと責任を持つこと。
石が見つからなくても盗んだり奪ったりはしないこと。
それから、たとえ全ての苦労が無駄になったとしても泣かないこと。
そうして君は、旅の最後に知るのさ……
世界には二種類の石があることを。
一つは、絶対に割れない石。
もう一つは、そうではないもの。
そうだ、この話を聞いた君には、この石をあげるよ。
割れるかどうか、自分で試してごらん。
……おやすみ、ポニーボーイ。
いつか君が美しい宝物を見つけることを夢見て、僕も眠るよ。
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