砂漠を旅している時のこと、独り寂しく焚火をしている老婆に逢いました。
夜は気温も下がるので、それ自体は珍しいことではありません。
しかし、彼女が燃やしていたのは木ではなく古びたぬいぐるみだったので、僕は不思議に想ったのです。
『何を燃やしているのですか?』
『これは、マリーが愛したぬいぐるみです。』
『そうですか……』
それ以上は詮索しない方が良い気がしましたので、僕はマリーが誰なのか尋ねることはしませんでした。
『あの子は大人になったので、もう必要ないのです。』
彼女は、静かに微笑んでいるようでした。
満天の星を眺めると、恐ろしいほどに綺麗です。
『あなたのもありますよ、ほら……』
そう言って彼女が袋から取り出したのは、遠い記憶、見覚えのあるボロボロの布でした。
それは間違いなく、僕が幼い頃に肌身離さず持ち歩いていた小さく色褪せたブランケットだったのです。
『なるほど、すっかり忘れておりました……それを触っていると、たとえ暗闇でもひどく安心したものです。』
僕は焚火を続ける彼女にお礼を言って立ち上がり、また誰も居ない砂漠を静かに歩き始めました。
朗読はこちら