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……空から見た景色……

ノルトワースのある街は、古い家並みのすぐ隣に森や水辺があり、学校や工場や野原、神社や廃墟なども迷路のように点在していて、歩くのには退屈しない所です。

その日の昼下がりも、僕は耳鳴りの丘下にある廃墟から続く見慣れない細道を見つけ、入ってみることにしました。

しかし、残念ながらそこは期待したような美しい森ではなく、薄暗い林の中に無数の錆びた機械が打ち捨てられている油まみれの場所でした。

黒土の地面は奥へ進むにつれてヌルヌルに滑る泥に変わり、次第に薬品のような臭いも強まって息が苦しくなります。

小さな虫の死骸さえ見つかりません。

……その時、何十年か振りにあの音を聴きました……

それは、熱にうなされる夕暮れや空気の濃密な嵐の夜など夢うつつの時によく起こる現象で、幼い頃から度々経験していたことでした。

耳鳴りと目眩がして、ものの尺度と形がおかしくなります。

説明し難いのですが、厄介なのは耳鳴りと共に必ず【良くない何者か】が近づいて来るので、それに捕まらないようなるべく早くその場から逃げ出さなければならないことです……

音の大きさでおおよその距離は判断出来ます。

必死に走って充分に離れ、完璧に隠れたつもりでも、何処からともなく微かな音を発しながら再び【それ】が近づいて来る時の絶望的な気持ち……そして、独特の孤独感が鮮やかに蘇ります。

その孤独感というのは恐らく、【それ】が僕以外の誰かに危害を加えることが無いため、友達と楽しく遊んでいる最中、あるいは美味しい食事の最中、どんなに名残惜しい状況であっても、とにかく自分一人だけがその場から立ち去らなければならず、その理由が誰にも理解されないために生じたものだと想います。

余談ですが、一度ちびっ子ショーの現場に居合わせた正義のロボットがその何者かに立ち向かってくれたことがありましたが結局惨敗してしまい、そのことが後に僕らのバンド名クレイジーロボッツの由来となりました。

……それは、今までに無く、一番大きく近い音でした……

嫌な予感がし、案の定、逃げ出す間もないうちに二つの異なるカナシミのようなものが鈍くぶつかり合い、軋むような衝撃の中で、僕はあっという間に意識を失って知らぬ間に黒い泥の上に倒れておりました……

気がついた時には影がいびつに捻じ曲がり、ふと見ると右腕のデッサンが大きく狂っています。

……黒い雨が降っておりました……

顔も身体も泥だらけで、何処からか血も流れています。

恐ろしくなった僕は慌ててその場を立ち去り、なんとか赤レンガの街角まで戻ると見慣れた駐車場に倒れ込み、そのまま救急車で運ばれました。

僕を乗せたその白く清潔な車は、悉く道の真ん中を走り抜け、まるで風のようにいつか来た懐かしい病院へと向かいます。

救急隊員の声が遠く近くに聴こえ、幼い夏に事故に遭った日の記憶がぼんやりと蘇りました。

……白く音の響く部屋……

白い病院に運び込まれると、白髭の院長先生は古い記憶のままの白衣姿で、奇妙に捻じ曲がった僕の右腕を忽ち綺麗に戻し始めました。

しかし、少しでも動かすとまたすぐに折れた枝のようにぶらりと垂れ下がってしまいますので、念入りに白く固めてもらうことになりました。

最後に、助手の少女があちこちに付いた泥や血液を丁寧に拭き取ってくれました。

……森の空から十三羽の白い鳥が姿を消しました……

意識が朦朧とし、沢山の人々の美しい歌声が聴こえます。

甘いアイスクリームとケーキとドーナツ、それから白いラムネも貰いました。

その上で、やがて痛みは静かになりました……

……ノルトワース……

僕は、一枚のハッタンビークを千切って浮かべた水を使い、時間をかけておぼつかない身体を丁寧に洗い流しました。

小さなシャツは痛くて着られないことが分ったので、その夜からはゆったりとした大き目のボーリングシャツで眠ることにしました。

……夢の中……

滅びの崖の上で、黒い蜂の巣を壊しました。

怪我を治すために甘いものが足りず、僕らはハチミツが欲しかったのです。

蜂に刺され、やがて黒い熊となった僕らは、暗い谷底へと転げ落ちました……

雷が激しく鳴り響き、黒く垂れ込めた雲はその底を鈍く光らせながら、いつ終わるとも知れず唸り続けておりました。

……これが、雨が多く冷たい令和元年の梅雨に起きたことです……

翌日、見舞いに来てくれたレベル400ゴッドスピードが車で僕を連れ出してくれました。

異様な天気が続き、朝から森じゅうの空に何本ものどす黒い雨柱が立っておりました。

なんだか恐ろしくて何処か遠くへ逃げ出したくなりましたが、やがて午後になるとそれは次第に収まり、夜にはとても静かで穏やかな時間が訪れました。

今はもう、悪いことなど何一つ起こる気配はありません。

しかし僕は何故か不安で眠れず、廃墟の林の泥の中で何か大切なものを落とし、それを忘れているような気がして仕方がありません。

なので、左手を使ってそれを文章に書き留めることにしました。

……それが、この物語です……

全ての事象や文脈に何か因果関係があるのか無いのか、僕には解りません。

けれど、それで良いのだ、と想います。

世界は今夜も美しく、カチカチに固まったこの右腕さえ、青い月が照らしているのですから……

平成29年のテレビから、リジンショーという番組がぼんやりと流れております。

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それでも道は続き、僕らは歩き続ける。

あの日、僕らが見た雨柱。

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