とても永い時間、歩いた気がします。
目的地は、乾いた風の埃っぽい荒れ地に立つ、小さな白い家です。
けれど、頭の地図がぼんやりと曖昧で、そこへ辿り着く道順がどうにも想い出せないのです。
いや、確か花咲く丘の上にぽつんと立っていた気もします。
それはともかく、いつもなら歩いていればすぐに辿り着く筈なのですが、なんだか今日はもう夕暮れになってしまいました。
そういえば……途中何処かで自転車も失くしたようです、僕らが大好きだった黄色い自転車。
その白い家の中には、古い木の椅子とテーブルがあります、テーブルの引き出しには紙と鉛筆。
絵を描くことも出来ます。
誰かがシチューを作っています。
家の外では、カエルや鳥が鳴いています。
風の音も聴こえます……嗚呼、今日は少し疲れたな。
家の庭が見えます。
誰かが笑っているようです。
だんだんと、シチューの匂いが立ち込めます。
とにかく座って待ちましょう、そうすればきっと何もかも解決する筈です。
草の匂いがします……空は何処までも高く、ひばりが雲の上に届くほどさえずっています。
この畑は、麦ですね。
青い風が吹き抜けます。
ポケットの中に何かあるのを想い出しました。
銀色に光るボーイスカウトのチーフリング。
それと……遠い昔に仕舞い忘れたままの、ほろ苦く甘いアーモンドキャラメル。
赤い箱の底にはくじが付いていて、当りが出ると景品がもらえる筈です。
懐かしいな。
遠くの道で、ポニーボーイが呼んでいます。
きっと魚でも釣れたのでしょう、あるいはカエルを捕まえたのかもしれません。
実を言うと、僕はカエルを捕まえるのはあまり好きではありません。
簡単過ぎるからです……それに、乾いた手で持ち歩いているとなんだか可哀想な気がするのです。
どちらかというと、クワガタやカブトムシの居る森の方が好きです。
それでも僕らは、きっと今から川の水をジャブジャブと渡り、カエルやザリガニを沢山捕まえることでしょう。
僕は、ポニーボーイにキャラメルを渡すために、急いで黄色い自転車に乗って走り出しました。
青空の眩しい、坂道の上を。
~2018年、東京の道の上で人知れず逝ったアキヒコに捧ぐ~
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