昨日突然お姉ちゃんがノルトワースの森に現れ、僕の絵を欲しいと言ってくれた時にきちんと答えられたかどうか、ちょっとだけ心配です。
なので今夜は、昔の想い出と一緒に少しだけちゃんとお礼を言わせて下さい。
最初の記憶……美しい森からやって来た若く綺麗なお嫁さんだったあなた、あなたを『お姉ちゃん』と呼ぶ甥っ子はリンガーウッドの幼稚園児。
あの頃いつも、ひまわりみたいな笑顔で僕を迎えに来てくれてありがとう。
小学生の頃、自転車を漕いで長い道のりを登校する僕はいつも遅刻ばかり……
呑気な甥っ子を優しく急かし、最後には素敵に怒りながら送り出してくれたお姉ちゃんにも、感謝を伝えたいです。
中学の時には生意気な恋の相談にも乗ってくれましたね。それも、ありがとうです。
あなたの入れてくれたココアは、いい香りがしてとても美味しかった。
その頃……でしたね。
急に……僕らの周りには想像もしなかった事が沢山起こって。
お姉ちゃんは大きな別れと瞳の病で毎日の涙、僕はといえば学校で馬鹿をして暗い道につまずきながら転んでばかり。
そのためにお互いにおしゃべりする余裕さえも無く、サヨナラの日々の中で叔母さんと甥っ子でもなくなってしまってからは、何年も何年もずっと顔を合わせることもなくなって……
けれど……昨日突然森に来たあなたは絵ではなく歌をリクエスト、お姉ちゃんらしいなって想わず笑ってしまいました。
……全ての視力を失ってもなお強く歩くあなたは昔よりもっと素敵で、あの頃のまま僕を好きでいてくれたことがすごく嬉しかったです。
本当にありがとう。
今の僕はもう、あなたの美しい瞳が憶えている無邪気な姿ではなく、疲れてへとへとに歳を重ねてしまったけど、笑顔で喜んでくれたように喋り声と中身はあまり変わっていません。
結局ちゃんとした大人にはなれなかったから、心配になったかもしれないけれど……
けれど僕も大丈夫だよ……なんとか、元気に歩いています。
お姉ちゃんの大好きだったあの懐かしい曲『スタンドバイミー』……いつか、また一緒に歌おう。
……約束。
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