気がつくと、ぼんやりと荒野に立っておりました……
静かな風が吹いて、遠くには小さな明かりが見えます。
まるで、天国のような場所です。
そういえば昔、誰かが言いました。
『この街には何でもあるな、まるで天国だ。』
けれど、それは違うと想ったのです。
何でもあるのは、地獄だと……
するとまた、誰かが笑いました。
『あの村には何もない、地獄だ。』
何か言おうとしましたが、いつの間にか身体が透明になっておりました。
荒野の彼方から、懐かしい声が聴こえます。
『森に居る時は、耳の奥を透明にした方がいい……けれど、街に居る時には多少目も耳も濁らせておかないと、心が疲れ切ってしまう。』
もういい、少し眠れ……
薄れゆく意識の片隅で、僕はその温かい声を聴きました。
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